グローバル企業のリスクマネジメント - 海外子会社の保険を見直そう - (その2)

前回は海外子会社の保険手配について、ありがちな問題点を指摘しました。

海外に拠点を持つグローバル企業における理想的な保険管理体制は、以下に集約されます。

  • 親会社が主導し、グループの連結決算を守るためにグローバルグループ全体で共通する保険条件を決定する。
  • グループの規模を生かすことで保険会社に対しての交渉力を持ち、グローバルベースでの保険料の削減を目指す。
  • 各国の法律や規制を遵守し、コンプライアンスに則した保険プログラムを構築する。

これらを実現するために、親会社で海外子会社の保険まで一括してグループ全体の保険を管理する手法をインターナショナル・プログラムと呼びます。(保険会社によってはグローバル・プログラム/コントロールド・マスタープログラム/マルチナショナル・プログラムと呼ぶこともあります。)

インターナショナル・プログラムを導入することで、親会社主導でガバナンスの効いた保険を海外も含めたグループ全体で導入することが可能となります。

インターナショナル・プログラムとは

インターナショナル・プログラムとは、親会社、国内子会社、海外子会社を含めたグループ全体の保険を、親会社が一括して手配を行う保険ソリューションです。日本ではまだそれほど多くの企業が導入しているとは認識していませんが、欧米では既に30年程前から企業規模の大小を問わず、海外展開をしている企業では盛んに取り入れられてきています。

単に「親会社が契約する1つの保険契約の中にすべての子会社を補償対象として入れてしまおう」というものではありません。こうすると前回指摘した保険付保規制に抵触してしまう恐れがあります。

インターナショナル・プログラムは、マスター証券と呼ばれる親会社と日本の保険会社が契約する保険証券と、ローカル証券と呼ばれる海外子会社と海外現地の保険会社が契約する保険証券を組み合わせて組成される、グローバルで統一された補償を提供するスキームです。。

例えば、中国とドイツに子会社を持つグローバル企業があったとします。中国、ドイツはいずれも保険付保規制が厳しい国です。そのため中国、ドイツの子会社に対して保険をかけるためには、各海外子会社は現地の保険会社と保険契約を締結する必要があります。この中国とドイツで締結される保険契約の証券をローカル証券といいます。

インターナショナル・プログラムを組成する保険会社は、世界各国に保険会社のネットワーク(自社グループ保険会社もしくは提携保険会社)を持っています。こうしたネットワークを利用して、各国のローカル証券の発行を行います。

インターナショナル・プログラムの導入方法

インターナショナル・プログラムの導入にあたって、保険契約の交渉は親会社が一括して保険会社と行うこととなります。マスター証券とローカル証券の両方について、親会社が責任を持ってその補償内容や保険料を日本の保険会社と一括して交渉します。海外子会社が個々に現地の保険会社と保険契約条件について交渉する必要はありません。

グループ全体の保険に関して親会社と保険会社で合意ができれば、あとは契約手続きです。日本の保険会社から各国の保険会社へ「日本で親会社と合意したこの条件で保険証券を発行してくれ」と依頼を行います。

インターナショナル・プログラムの導入をするにあたり重要なことは、グループとしての意思決定です。親会社が主導権を握り、各国の保険をグループで統一することによるメリットを子会社に説明を行い、納得させていく必要があります。

グループ全体としてのリスク管理に関わる戦略を示し、その体制を整えることが親会社の役割です。「インターナショナル・プログラムを導入したいと思います。あとは保険会社にお任せします」といった他人任せなリスク管理方法は、きっとうまく機能しないでしょう。インターナショナル・プログラムの導入はあくまでグループリスク管理のための手段であり、その導入自体が目的となってはいけません。

インターナショナル・プログラムのメリット

1. 保険料の合理化

インターナショナル・プログラムのメリットのひとつに、保険料の合理化があります。

保険会社が保険料を計算する際の流れを見てみましょう。従来の各海外子会社が現地でそれぞれ保険に加入する方式の場合、各国の保険会社が独自に保険料を計算します。一般的に賠償責任保険の保険料は売上高の規模が大きければ割安になりますので(前回の記事参照)、規模の小さな海外子会社は割高な保険料を支払っている可能性があります。

一方、インターナショナル・プログラムの場合はまずグループ全体の保険料が最初に決定されます。そこではグループ全体の売上高に基づいたスケールメリットが適用され、割安な保険料でのご提案が可能となります。その後、リスクに応じてマスター証券と各国ローカル証券の保険料配分を行います。そのため単体では規模の小さな海外子会社でも、グループ全体のスケールメリットを享受した割安な保険料で保険に加入することができます。

(※注:全てのケースで必ずグループ全体の保険料が安くなることをお約束するものではありません。)

2. 事故発生時の対応

万が一事故が発生した際に、一貫した補償を受けることができる点もインターナショナル・プログラムの利点のひとつです。

グローバル企業のバリューチェーンは複雑化しています。製造業において設計、製造、販売をすべて別の子会社が行っていることも珍しくないでしょう。

例えば、日本の親会社が設計を行い、中国の子会社が製造し、シンガポールの子会社が販売するような場合を考えてみてください。こうしたバリューチェーンで売られた製品で発火事故が発生し、それによりケガをしたユーザーからPL(製造物責任)訴訟を受けたとします。

発火の原因が設計上のミスなのか、製造上のミスなのか。もしくは販売時にユーザーへの取り扱いの説明が不十分だったのか。それともこれらの複合的な要因によるものなのか。それによって責任の所在が親会社にあるのか、中国子会社にあるのか、シンガポール子会社にあるのか変わってきます。

もしこれらの親会社、中国子会社、シンガポール子会社がそれぞれ別の保険会社とPL保険の契約を結んでいた場合、事故処理が煩雑になることが予想されます。事故原因が特定されるまで誰に責任があるのか判然とせず、その間各国の保険会社と個別に交渉をしながら事故処理を進めていく必要があります。

単純に3つの保険会社と個別に交渉していくのには手間がかかることはもちろん、別の問題も発生する可能性があります。それは、個々の保険会社の事故に対する姿勢の問題です。

それぞれの保険会社が一丸となって協力し「一緒に事故の早期解決を目指しましょう」となればよいのですが、現実的にはそうはいかないかもしれません。というのも、各国の保険会社は互いに独立した保険会社ですので、なるべく自社では保険金を払わずに他保険会社へ支払いをさせるように仕向けるようなインセンティブが働いてしまう可能性があります。日本の保険会社は「これは設計上のミスではなく製造上のミスだ」と主張し、一方で中国の保険会社は「製造上のミスではなく販売時の説明不足だ」と主張するかもしれません。お互いの過失割合に関する交渉に時間がかかり、保険金の支払いまで時間を要してしまう可能性があります。

インターナショナル・プログラムであれば、どこの国の子会社で事故が発生したとしても、それはすべて1つのインターナショナル・プログラムという枠組みの中で事故処理が行われることになります。先ほどのようなケースでは、日本、中国、シンガポールの各国の保険会社はすべて同一グループの保険会社もしくは提携保険会社となりますので、事故に関する情報は保険会社間で共有することが可能です。

また保険金をマスター証券から支払おうが、中国やシンガポールのローカル証券から支払おうが、保険会社にとっては同じ事です。専門的な話になりますが、ローカル証券で発生した事故は再保険契約という形を通じてマスター証券の発行国にて補償することとなります。つまりどこの国で事故が起ころうが、最終的にその損害を負担するのは日本の保険会社ということになるのです。親会社、子会社間の過失割合は保険会社にとって本質的な問題ではなくなるため、事故の解決向けてお客様と保険会社が一体となり、スムーズな事故処理を行われることが期待できます。

(第3回に続く)

(ご注意)
2020年7月現在、スイス損害保険会社では企業用損害賠償責任保険および生産物賠償責任保険においてのみ、インターナショナル・プログラムの引き受けを行っております。

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