グローバル企業のリスクマネジメント - 海外子会社の保険を見直そう - (その 4)

これまでグローバル企業向けのリスクマネジメントの手法としてインターナショナル・プログラムを紹介し、そのメリットについて書かせていただきました。一方で、インターナショナル・プログラムは完全無欠のソリューションというわけではなく、そこにはいくつかの課題があります。

1.部分最適と全体最適の問題

インターナショナル・プログラムでは、親会社で海外子会社も含めた保険を一括管理することで、グローバルグループ全体での保険の内容の統一や保険料の合理化を行うことが期待できます。こうした保険手配方法はグループ全体のリスクマネジメント体制の構築に役立ちます。

一方、グローバルベースで統一した保険を導入したとき、それが必ずしも個々の海外子会社の希望通りの保険契約になっているとは限りません。各々の海外子会社はその事業の内容、規模、各国の法規制、商慣習などによって、各国で求める保険の内容に違いがあるかもしれません。しかしインターナショナル・プログラムはグローバルで統一した補償内容の保険を親会社で管理しながら運用していきます。そのためグループ全体で見たときには最適な保険内容になっていたとしても、個々の海外子会社の希望には沿っておらず、インターナショナル・プログラムの導入に理解が得られないことも想定されます。

また保険料負担の問題もあります。インターナショナル・プログラムを導入することでグループ全体では保険料が削減されたとしても、個々のローカル証券の保険料がこれまで現地で個別に加入していた保険よりも必ず安くなると言い切ることはできません。現地で個別に手配していた保険の年間保険料が10万円だったにもかかわらず、インターナショナル・プログラムによって親会社が手配したローカル証券の年間保険料が20万円となってしまうことも起こりえるでしょう。このとき、これまでよりも高い保険料を払うことになってしまう海外子会社から不満が生じる可能性があります。

これは部分最適と全体最適の問題です。即ち、グループ全体の最適を考えた場合の全体最適の保険と、個々の子会社の最適を考えたときの部分最適にギャップが生じている状態です。

しかし部分最適を優先してグループの全体最適を損なってしまっては本末転倒です。インターナショナル・プログラムの導入にあたっては、親会社の強いリーダーシップの元で丁寧に各国子会社に説明を行い、全体最適に関する考え方をグループに浸透させることが重要です。

2.保険金の支払いに関する問題

第3回の記事において、DICおよびDILという手法によってマスター証券とローカル証券の差異を補てんする旨の説明を行いました。その際、例えばドイツ子会社において300万ドルのPL事故が発生した際、100万ドルはドイツで発行されるローカル証券から保険金が支払われ、残りの200万ドルは日本で発行されるマスター証券から保険金が支払われることとなるという事例を紹介しました。

このときの問題は、日本のマスター証券からDILとして支払われる保険金200万ドルの取り扱いです。ドイツは保険付保規制の厳格な国ですから、この200万ドルを日本の保険会社からDILとしてドイツの子会社へ支払うことは「ドイツ子会社のリスクに対して日本の保険会社が保険をかけている」とみなされ、保険付保規制に抵触する恐れがあります。

こうした問題を解決するために、Financial Interest Cover(FINC;フィンク)というソリューションを採用する保険会社があります。これは海外子会社で生じた損失をもって「親会社の連結決算に欠損が生じた」とみなし、親会社に対して保険金を支払うソリューションです。先ほどの例を挙げると、200万ドルのドイツ子会社のPL事故による損失を「日本の親会社の連結決算に生じた200万ドルの損失」とみなし、マスター証券から200万ドルの保険金をドイツ子会社ではなく親会社に対して支払います。こうすることで「ドイツ子会社のPL事故による損失に対してマスター証券から保険金を支払った」のではなく、「日本の親会社の連結決算に生じた損失に対してマスター証券から保険金を支払った」ということとなり、保険付保規制違反を回避することができるという整理です。

このとき、グループ全体でみれば300万ドルの損失に対して300万ドルの保険金がマスター証券およびローカル証券から支払われることになるため、すべての損失が保険によりまかなわれたことになります。一方でドイツ子会社単体を見たときに、300万ドルの損失に対してローカル証券から支払われる100万ドルの保険金しか受け取ることができません。もしドイツ子会社の資本力が脆弱な場合、現地で十分な保険金を受け取れないことによってキャッシュフローに悪影響を与えてしまう可能性があります。

こうした問題を回避するため、マスター証券と各国のローカル証券の支払限度額差や補償内容差を可能な限り小さくなるようにローカル証券を設計する方法が考えられます。保険付保規制が厳しい国においてローカル証券を発行する場合、支払限度額をマスター証券と同額に設定する、マスター証券と同様の特約を付帯するなどDIC/DILが発動する余地を少なくすることで、海外子会社で損失が発生したときにその子会社自身が保険金を受け取れる可能性が高まります。個々の海外子会社の業務内容や財務内容、これまでの損害歴などによってはこうした設計の仕方も検討の余地があるでしょう。

おわりに

これまで見てきたように、インターナショナル・プログラムの導入はグローバルベースでのリスクマネジメント体制の構築に役立ち、また保険料の合理化や各国グループ会社を跨ぐ保険事故の発生時の対応にもメリットがある手法です。グローバル展開をしている企業のために最適な保険ソリューションのひとつと言えるでしょう。

一方でインターナショナル・プログラムというソリューションは日本ではまだまだ知名度は高くありません。これまでインターナショナル・プログラムという言葉を聞いたことがなかったり、海外子会社が絡む保険の手配は難しいそうだという先入観があったりするなど、大企業以外ではまだまだ普及が進んでいないソリューションです。

しかし中小・中堅企業であっても海外子会社のリスク管理の重要性は変わりません。むしろこうした中小・中堅企業の方が海外子会社の保険まで手が回っておらず、リスクマネジメント体制に問題を抱えていることが多くあります。海外展開する際には販路やサプライヤー、人材の確保など本業に関わる経営資源の確保は第一に考えるものの、保険契約といった普段ビジネスを行う上ではあまり意識しない間接材についてはなかなか気が回っていないケースも散見されます。

私もこれまで数多くの企業に対してインターナショナル・プログラムを提案してきましたが、「海外子会社が保険に入っていなかった」「保険に入っていないことの認識もなかった」「保険には入っていたが内容が不十分だった」という中小・中堅企業様を多く見てきました。幸いにも事故がなければ保険をかけていなくても問題なくビジネスは回っていきますが、万が一大規模な事故が海外子会社で発生し保険による補償が十分に受けられなかった場合、その影響は日本の親会社にも及ぶことになるでしょう。

インターナショナル・プログラムを導入することで海外子会社の保険も日本の親会社が主導で管理することが可能となり、海外子会社は保険の手配に関する心配をせずに本業のビジネスに集中することができるようになります。もちろんさまざまなメリットとデメリットを比較した上で、インターナショナル・プログラムを導入せずに海外子会社の保険は現地に手配を任せるというような判断をすることもありえるでしょう。しかし「インターナショナル・プログラムの導入を検討したものの採用しなかった」のと「海外子会社の保険についてこれまで全く検討したことがなかった」というのは大違いです。企業の規模にかかわらず、海外に1つでも拠点を持つ企業様はインターナショナル・プログラムの導入を検討することをお勧めします。

 

(ご注意)

2020年8月現在、スイス損害保険会社では企業用損害賠償責任保険および生産物賠償責任保険においてのみ、インターナショナル・プログラムの引き受けを行っております。

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