サプライチェーン・リスクマネジメントの将来

グローバルソーシング、モバイル・ウェアハウジング、ジャスト・イン・タイム生産方式およびリーン生産方式を指向するトレンドによって、サプライチェーンは高度に最適化される一方でますます複雑化しています。物事がうまくいっている場合、それはコスト効率的なオペレーションやムダの少なさを意味しており、企業は柔軟性が高く機動的な方法で顧客の要求に応えることができます。

しかしこうしたトレンドによって、サプライチェーンは新たなリスクにさらされ、そのリスクは時として認識しがたい場合もあります。そして事業中断となった場合、これらのサプライヤーシステムの複雑性と生産の即時性によって、事業が突如重大な混乱に陥り、利益に直接的な影響を及ぼす、あるいは市場のシェアや企業の評判にさえ影響を及ぼすことになる場合があります。

例えば、政府がコロナウイルスの感染拡大を抑制するためにロックダウン(都市封鎖)を実施する場合、多くの企業は、商品の輸送が中断されることによって生産が立ち行かなくなってしまうでしょう。以前であれば企業は倉庫に予備やバックアップを用意していた可能性が高いのですが、ジャスト・イン・タイムの慣行によって、今や多くの企業が、操業に必要なサービスやパーツに容易にアクセスできない状態となってしまうことがあります。

スイス・リー・コーポレート・ソリューションズのResearch & Technical DevelopmentのマネージャーであるThomas Kocherは次のように述べています。「最適化とは、サプライチェーンにおいてスラック(余剰)が少ない状態であることを意味することがよくあります。その結果、新型コロナウイルスの感染拡大や、貿易摩擦による経済環境の急激な変化などに直面した場合、いち早くサプライチェーンへの影響を感じることになるでしょう。」

この場合の論点は、なぜそれが発生するのかという問題について対処するか否か、あるいは混乱が深刻になってしまう可能性があるためリスクが顕在化する前に軽減策を講じる必要があるか否か、ということでしょう。昨今のサプライチェーンのレジリエンス(強靱性・回復力)は、通常の環境下であれば極めて高いのですが、稀にしか発生しないイベントの場合はその相互関係によって非常に深刻な影響を受ける可能性があります。このため、そのような場合には、突如として多くの企業と同様の問題を抱えることとなり、同程度のリスク軽減策を講じる必要性が出てくる可能性があります。」

変化する情勢

この1年の特殊且つ変化の激しい事業環境によって、企業が直面するサプライチェーンの脆弱性が、ビジネスにおける最重要事項として浮上してきました。一部の企業にとってこのことは、サプライチェーンのレジリエンスを高めるために、将来的な取り組みを変更する切っ掛けとなったかもしれません。すなわち、ニアショアリングやリショアリング、倉庫へのバックアップ在庫の再導入、あるいは代替の生産拠点の設置、などについて検討するということです。

Kocherはまた次のように述べています。

変わりつつあるのは、リスクマネージャー、経営陣および保険会社のいずれもが、サプライチェーンのリスクをどのように認識し、それぞれの意思決定にどのように組み込んでいるかという点です。
Thomas Kocher, Manager Research & Technical Development, Swiss Re

「サプライチェーンの寸断が一段と深刻なものとなる中で、企業は、事業活動から特定のリスク要因を排除するために、サプライヤーを近くに置くといったある特定の対策を再考し始めています。」

スイス・リー・コーポレート・ソリューションズは、複雑且つグローバルなサプライチェーンの潜在的な混乱が現実のものとなったことを受けて、重要なITインフラや重要な中間製品の製造について、インソーシング、ニアソーシングあるいはリショアリングに回帰する企業の事例を目にしてきました。

「最近発生した大きなサプライチェーンの問題の事例があまりにも多いため、『実際に混乱が起きるなんて思ってもみなかった』とか、『これまで気付きもしなかった脆弱性が明らかになった』という言葉をよく耳にします」とKocherは指摘します。「これによって、リスク評価の方法や意思決定の方法が変わってきています。」

リスクエンジニアリングの役割

企業が内省の作業を進め、サプライチェーンの最適な構造がどのようなもので、そのリスクをどう管理するか自問自答する中で、リスクマネージャーが自社の生産プロセスの脆弱性を十分に理解することが一層重要となっています。Kocherは、この過程においてリスクエンジニアリングがますます重要な役割を果たすようになると考えています。

 「重要なバリュードライバーの1つは、サプライチェーンについて理解することと、混乱が生じたケースでのサプライチェーンに対する想定です。これは些細なことのように聞こえるかもしれませんが、 影響の評価、定量化、戦略の決定および軽減措置の導入を行うための前提となる基本的な条件なのです。十分に深く、適切な理解を確実にするためには、体系的なアプローチが重要です。」

リスクエンジニアとともに、お客様は自身が抱えているエクスポージャーの潜在的な影響を体系的に評価し、リスクマネジメント戦略を慎重に選択します。この体系化されたプロセスによって、リスクマネージャー、経営幹部、取締役などは、特定のサプライチェーンリスクを管理する手法に基づいて効果的な意思決定を行うことができるようになります。

お客様は、体系的且つリスクにフォーカスした第三者による評価の価値をよく理解しています。なぜなら、お客様は日々その他無数のビジネスの案件に対応しており、リスクは考慮しなければならない多くの要素の1つに過ぎないからです
Thomas Kocher, Manager Research & Technical Development, Swiss Re

とKocherは説明します。「業界の常識に捉われず、サプライチェーンのリスクマネジメントがより進んでいる他の業界から学ぶことが重要です。」

当社のエンジニアは、主要な業界で幅広い経験を有しており、お客様との継続的な対話の中でテイラーメイドのソリューションを提供することができます。経験上、このような対応は効果的なソリューションにとって非常に重要です。

より適切な意思決定を可能に

企業が主要または重要なサプライヤーを検討する場合、財務的な面あるいは個々の事業部門に重点を置いてサプライチェーンを検討します。数十年にわたる実際の損失状況に裏打ちされた、企業全体にわたる影響を中心に考えられた現実的な見解は、他の方法では見過ごされがちな重要なエクスポージャーの特定に役立ちます。

Kocherは次のように結論づけます。「サプライチェーンのリスクを管理する完璧な方法はありません。リスクエンジニアは、そのプロセスがどのようなものであるかに関する豊富な経験を対話に取り入れ、個々のお客様がサプライチェーンのリスクマネジメントについてどのような段階・状況にあるのかを洗い出し、お客様の具体的なニーズに合わせて包括的なサプライチェーンのリスクマネジメントをサポートできるように取り組みます。」

初版はStrategic Riskにより2020年11月30日に発行

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