自動車製品のリコール:業界の変革期におけるリスク管理

製品のリコールは、企業の業務に深刻な混乱をもたらし、複数の管理者層の注意力を散漫にし、収益性を脅かし、主要な顧客との関係を危険にさらすおそれがあります。現在、製品のリコールリスクに対するリスク・マネージャーの関心が高まっています。特に、製品のイノベーション、規制、複雑なグローバルサプライチェーンにより、リコールリスクが高まり、管理がより複雑化しているためです。

自動車業界は、製品のリコールリスクの状況がどのように変化しているかを示す、顕著な例の1つであると言えるかもしれません。テクノロジーの強化、競争環境の激しさ、顧客のニーズと期待の進化、さらに規制当局による監査などの要因により、製品のリコールリスクは、品質管理だけでは対応できない懸念事項となっています。現在、リスク緩和のための新たな戦略とアプローチが導入されています。

リコールの増加

全体的な傾向は明らかで、製品のリコールは、アジア太平洋地域を含むすべての主要マーケットの自動車部門に広がっています。中国では、タカタ製エアバッグのリコール問題の影響もあり、2016年から2018年にかけてリコールが急増しました。これらのエアバッグは、高温多湿の環境に長時間さらされると、展開時に破裂するおそれがあるというものです。1サプライチェーンが世界規模であるという性質上、この問題はインドなど他のアジア市場にも影響を与えました。一方、韓国では、国産車と輸入車両方のリコール台数が数年間にわたって過去最多を更新しています。2

テクノロジー主導の徹底によるプレッシャー

ユーザーの要望やニーズに合わせた車両設計の傾向が、ますます高まっています。つまり、メーカーは、モビリティ、機能性、経済性、安全性、サービスに対して高まる消費者の要件に対応していく必要があります。

車両の要件が変化するにつれて、リコールの傾向も変化します。例えば、より持続可能な自動車に対する需要の増加に伴い、ガソリン車に比べて技術的欠陥の影響を受けやすい新エネルギー車(NEV)の製品リコールも増加傾向にあります。例を挙げると、中国では、NEVは2020年末までの合計自動車台数の1.8%しか占めていないにもかかわらず、昨年記録されたリコール事案の総数199件のうち、約4分の1がNEVに関するものでした。3

テクノロジーにより、車両の高性能化と、その安全性および環境性能の向上が進みましたが、自動車のエコシステムに多くの潜在的な障害や脆弱性がもたらされることにもなりました。電気系統、バッテリー、制御装置が、リスク領域として浮上しつつあります。2021年初め、米国当局は、カメラや信号などの安全機能を中断させる可能性があるフラッシュ・メモリーの故障を原因とする電気自動車のリコールを発表しました。最近では、主要なバッテリー・メーカーが、141,000台の電気自動車のバッテリーに関するリコール費用を補償するため、米国の自動車メーカーに対する約20億米ドルの支払いに同意しました。

このような困難な状況に加えて、競争の激化により、開発時間の短縮、コストの削減、最新の技術革新の迅速な導入が求められています。NEVを例に挙げると、メーカーが関連する最先端技術を徹底的にテストするように努めているにもかかわらず、実際の状況では、予期しない結果がもたらされ、製品のリコールリスクが高まる可能性があります。

よりコネクテッドな環境での規制の強化

安全性と顧客保護をさらに重視するため、規制当局は、自動車のリコールに関するガイドラインを強化しています。そのため、企業には、新しい安全基準を維持し、それに適合することが求められます。これは消費者にとってはプラスとなり、奨励すべきことですが、メーカーや部品サプライヤーにとっては課題となっています。サプライチェーンは世界中に広がっており、プロトコルは各拠点によって異なるためです。

規制当局による監査が増えるにつれて、リコール事案も増加する可能性があります。中国は最近、同国で米国の自動車メーカーが285,000台以上の車両を「ソフトリコール」した数ヵ月後、電気自動車メーカーに対する規制を強化4しました。5さらに、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、自動車のリコールに対してより厳しい姿勢をとる体制を整えていると見られています。6

今日のグローバル化されたサプライチェーン・ネットワークでは、リコールのリスクがさらに複雑化する可能性があります。自動車部品業界では、大規模な統合の動きが徐々に進んでいます。メーカーは、数少ない大規模なサプライヤーから部品を調達しているため、リスクが集中することになります。  タカタの事案は、大規模な自動車部品メーカーの存続を脅かし、自動車サプライチェーン全体に衝撃を与える、製品リコールの一例と言えます。

変化の中でのレジリエンスの強化:予測、防止、保護

すべての課題に対して、自動車業界のテクノロジー主導の進化には、問題点よりもはるかに多くの利点があります。OEM(Original Equipment Manufacturers:完成車メーカー)と自動車部品サプライヤーが製品のイノベーションにテクノロジーを活用するうえで、リコールリスクを最小限に抑えビジネスレジリエンスを強化するための第一歩は、テクノロジー、規制、サプライチェーンの各分野におけるリスク・トレンドの監視を強化することです。

世界的なリコールの傾向を把握することで、業界のプレイヤーは、十分な情報に基づいた意思決定を行い、効果的な早期対応を策定することができます。特定の賠償責任リスク・プロファイルの理解を深めるツールやデータベースへのアクセス、各国の規制やリスク管理の方策に関する知識は、進化するリスク環境に起因する損失の軽減に役立ちます。統合されたサプライチェーンの性質を念頭に置くことも重要です。持続可能な製品リコール・ソリューションは、自動車メーカーだけでなく、小売業者、流通業者、部品メーカーも対象にする必要があります。

また、新しいテクノロジーに起因するリスクを軽減するために、製品の設計・開発の初期段階で厳しい試験および品質管理プロセスを実施し、生産プロセスに継続的な改善という文化を浸透させることも重要です。  

これにより、自動車メーカーは、テクノロジー企業が一般的に採用している「ベータ・マインドセット」の罠を回避できるようになります。これは、新製品を市場に迅速にリリースし、バグの修正に関する懸念は後回しにするという考え方です。小さなエラーが安全性に大きな影響を与える可能性がある自動車製品開発では、このようなアプローチに支払う代償は、非常に大きくなります。

製品リコールのリスク管理を成功させるもう1つの重要なステップは、準備です。自動車メーカーと部品サプライヤーは、リコール事案が発生した際には速やかに行動できるように、しっかりした専門のリコール対応部署を社内に構築する必要があります。また、この部署を支える詳細なリコール・プランを策定し、実際のシナリオに合わせてモデル化した定期的な試行を通じてテストおよび改善することが求められます。これらは、組織がいつでも以下のことを迅速に確認できるよう、リソースを整備することを目的としています。

  • リコールの原因となった製品または部品は何か?
  • どのメーカーまたは顧客に対してその製品が販売されたか?
  • どの製造バッチおよびどの程度のユニット数が影響を受けるか?

自動車メーカーやサプライヤーは、専門分野の専門知識を持つ保険会社とのパートナーシップを通じて、リスクの軽減と認識の向上を図ることもできます。例えば、リスクエンジニアの深い知識と豊富な経験を活用することで、企業はリスク・エクスポージャーを評価し、製品リコールへの準備状況をベンチマーキングすることができます。また、リコールによって発生する業務上の大混乱を、企業が財務の安定性を維持しながら切り抜けるために特別に設計されたソリューションもあります。  

リスクが複雑化するほど、より革新的でカスタマイズされた保険適用範囲が必要になります。保険会社と自動車製品プロバイダ間の協業により、製品の故障や設計ミスによって発生するリコールに対して、テーラーメイドのソリューションを作成することができます。

テクノロジー業界と自動車業界の境界がよりあいまいになるにつれて、自動車業界のプレイヤーは、最先端のテクノロジーと機能を製品に統合することが、競争上の優位性を得るための重大な要因であると考えるようになるでしょう。しかし、テクノロジー主導のリスクを軽減するための知識や積極的な取り組みもまた、組織の長期的な成功(商業的な成功)や、規制当局や顧客との関係において、重要な要素となるものと考えられます。

Further Information

リスク・エンジニアリングサービスの詳細につきましては、こちらまでお問い合わせください。

 

1 Takata Recall Spotlight, NHTSA
2 Korea Transportation Safety Authority
3 2021 Automotive Defect & Recall Report | Stout
4 https://www.scmp.com/tech/policy/article/3144811/china-doubles-down-smart-vehicle-data-regulation-after-teslas-ev-recall
5 https://www.cnbc.com/2021/06/28/tesla-shares-shrug-off-soft-recall-of-285000-cars-in-china.html
6 https://www.prnewswire.com/news-releases/stricter-regulations-and-increased-enforcement-of-product-recalls-under-biden-administration
https://www.scmp.com/tech/policy/article/3144811/china-doubles-down-smart-vehicle-data-regulation-after-teslas-ev-recall -looks-to-impact-all-industries-in-2021-and-beyond-301359142.html

7 https://corporatesolutions.swissre.com/dam/jcr:03ffe018-3e76-4d98-8c9e-f5b7ed24f73a/crisis-management-product-recall-contamination.pdf

 

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