パラメトリック型保険 – 長い歴史と明るい未来

パラメトリック型保険 – 長い歴史と明るい未来

パラメトリック型保険は新種の保険ではありません。この保険の最初の構想は200年も前にさかのぼるものでありましたが、現在は洗練されたデータ主導型の保険商品として、当初とは全く異なる変貌を遂げています。

従来型の商品と並行してパラメトリック型保険を活用することで、企業は定義されたリスクに対する補償に加え、ますます深刻化するリスク環境においても補償ギャップの補完が可能となります。

起源

パラメトリック型保険の初期事例は1800年代に確認されています。例えば、1817年にハンブルグの保険会社である旧General-Feuer-Kasse(英名:Hamburg Fire Office)が、火災保険の補完として家賃損失を購入するオプションを大家に提供しています。初期の多くの保険と同様、最初のパラメトリック型保険も、有事が起こる確率に対して両者が賭け合うような仕組みになっていました。

スイス・リーをはじめとする大手保険会社がパラメトリック型保険の提供を開始したのは、1990年代後半になってのことです。これらは時代を経て洗練され、従来型の保険商品と並行しながらも、リスクに対する代替アプローチとして設計されてきました。

「現代のパラメトリック型保険が誕生した経緯としては、保険金請求処理時間の短縮、より柔軟な補償、保険金支払いの確実性を求める大口顧客の要望によるところが大きいです」とスイス・リー・コーポレート・ソリューションズEMEA地域イノベーティブ・リスク・ソリューションズ統括のヤン・バッハマンは説明しています。

「例えば銀行は、所有不動産が損壊した場合に、住宅ローン・ポートフォリオを補償してくれるような保険があることを望んでいました。」

実際、スイス・リーの初期のパラメトリック型保険は、法人のお客様に対し、地震保険の追加補償を提供する目的から誕生しています。

現在の利用状況

全世界のパラメトリック型保険の市場規模は、2021年時点で117億米ドル、さらには2031年までに293億米ドルまで成長する見込みです。パラメトリック型ソリューションへの関心は高まりつつあり、スイス・リー・コーポレート・ソリューションズでは、2022年8月時点のパラメトリック型保険の売上が2021年と比較して40%以上増加しています。

「パラメトリック型保険の市場は、予想を上回る規模で日々成長しています。この影響により、従来型の保険をますます効率的に運用することが可能となるのです」とバッハマンは言います。

ハリケーンが多発するカリブ海の海岸沿いのホテルやメキシコ湾の海洋プラットフォームに対する補償、大地震の影響による収益減のヘッジなど、今やパラメトリック保険はあらゆる場面で利用されています。また、公共施設の暴風雨被害や自動車ディーラーに対する雹被害の補償、加えて、大規模な自然災害が発生した際に従業員やその家族を支援する福利厚生制度の拡充にも貢献しています。パラメトリック型保険がどのように有用であるかについては、事例をご覧ください。

パラメトリック型保険は一般的に、米国地質調査所米国立ハリケーンセンターなど、独立した著名な第三者機関の提供するデータとリンクしています。これにより、保険会社は「基準」を確立し、その基準を超えた場合に支払いが発生するパラメーターを設定できます。

地震やハリケーンなどの自然災害に対するパラメトリック型保険は、過去の気象データ(地震計測や風速情報、台風経路など)が豊富にそろっているため、比較的容易に開発することが可能です。

ただし、水難、特に鉄砲水は一過性の現象であるため、保険料の算定は他のケースと比べ難しくなります。現在、スイス・リー・コーポレート・ソリューションズでは、氾濫原に基づく従来の計算方法より優れたモデル計算を行えるようになりましたが、他の自然災害に比べると依然として課題は大きいと言えます。

災害の規模と発生頻度が増していることに加え、一部の大規模な自然災害がサプライチェーンに影響を及ぼしていることから、パラメトリック型保険の利用は、企業にとって重要な検討課題となっています。そのため、保険業界全般でパラメトリック型保険市場に対する関心が高まっています。ただしこれらの商品が設計どおりの優れた補償を提供するためには、有力なデータと高度なモデル計算を基盤に開発されていることが前提として重要です。このノウハウがなければ、適切なソリューションを提供するのは不可能だと言えるでしょう。

新たな補償範囲

パンデミック以降、特に注目を集めているのが事業中断に対する補償です。損害の内容が物理的なものではなく、財務的または風評的なものである場合、従来型の保険では、遅延やその他の要因により、災害の影響を完全に把握できないことがあります。

また、損失額が巨大になることから、従来型の保険では補填できなくなったリスクも増えています。

この場合、パラメトリック型保険が代替案や回避策になることができます。

送配電線(T&D)の損傷に対する補償がその一例と言えるでしょう。このような事態が頻繁に発生するため、企業はこのリスクを引き受けてもらえる保険会社を見つけるのに苦労していました。

被害の多くは風によるものですが、これは当社の保有データからの情報を参照できます。

スイス・リーは、風の閾値と再来周期に基づくオーダーメイド商品を開発することで、リスクに応じた適切な算定額を提示できるようになりました。

パラメトリック型保険は現在、先進企業による利用が主となっています。しかし将来的には、住宅所有者が抱えるような比較的小さなリスクにおいても利用頻度が高まることが想定されています。また、半自動化された商品は、基本的なサービスを拡大できる可能性を秘めています。

データがこれからの保険に及ぼす影響

データの利用可能性や精度が増すにつれて、リスクを評価するための手法も新たに生まれてきています。

しかし、ここで気を付けるべきなのは、気候変動が当社のモデル計算に影響を与えていることです。もはや過去のデータに過度の信頼を寄せることができない状況にあります。

また、お客様の事業に関するパラメーターや指標も併せて必要であり、それによって、特定水準以上の被害が発生しているかどうかを判断します。

一般的には、データは独立した第三者から得る必要がありますが、保険業界では、お客様から寄せられた精度の高いデータを利用することが常態化しつつあります。これは指標作成のあり方にも変化をもたらしています。

お客様から得るべき情報を記した本格的な既成カタログが用意されている従来型の保険商品とは異なり、パラメトリック型保険はより柔軟な対応が可能です。

例えば、お客様が売上高の公表を望まない場合、災害発生時に求償できるであろう情報を基に、保険金を見積もることもできます。

災害などの評価に関しても、創造性にとんだ方法で対処できます。この例としては、来客数データが利用できない場合、携帯電話の信号データを代わりに利用することなどが挙げられます。このようなデータは、ショッピングモールなどの混雑状況を把握するのにも役立ちます。当社はこれに類似したアプローチを用いて、鉄道駅の閉鎖が周辺の店舗や企業に与える影響を分析した経験があります。

パラメトリック型保険はこのような形で保険の可能性を広げていっているのです。データソースの範囲や精度が向上すると同時に、可能性も発展し続けています。

いまやパラメトリック型保険は、時代の先端を行くお客様に限った商品ではありません。リスク背景が深刻化あるいは難化していることからも、企業が有事に対応するための重要なツールとなることでしょう。

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