保険の未来:財物損害を伴わない事業中断 (NDBI: Non-Damage Business Interruption)

無形資産が企業の価値に占める割合が大きくなっていること、そしてサプライ・チェーンの拡大・複雑化により、事業中断はより複雑化

新型コロナウイルスのパンデミック、英国ロンドン・ブリッジでのテロ攻撃、およびボーイング737墜落事故などの事象が引き続き世間を賑わす中、財物損害を伴わない事業中断(NDBI)のリスクが企業の課題として浮上し、注目が集まっています。

この一因として、企業価値の源泉に占める無形資産の割合が増加していることがあげられます。調査によると、上場している大企業の市場価値の80~90%が、バランスシート上、有形資産ではなく無形資産から生み出されています。

それに加え昨今の経済トレンドは、企業がサプライ・チェーンの拡大、複雑化により、今までにない複雑な経路で事業中断リスクに晒されていることを示しています。

現在企業が注視しているNDBIには主に以下の3つのタイプがあります。

  • メディアと評判の失墜
  • サプライ・チェーンの混乱
  • 基幹インフラ

スイス・リー・コーポレート・ソリューションズのロイ・バウマンは次のように説明しています。「こうした例は、財物損害を伴わない事業中断の原因となり得る幅広い事象を示しており、多くの場合その損害は甚大なものです。ここ最近のトレンドは、経済的損失における無形資産の割合が大きいことを明確に示しています。」

非財物損害に対する脅威から企業を守る

パンデミックのようなシステミック・リスクについては民間市場だけで対応することができない一方で、他の種類のNDBIリスクについての対応は広まっています。パンデミック、人に起因するリスクおよびサイバー犯罪などの脅威によるリスクを緩和または移転するためのソリューションを求める声は、リスク・マネジャーたちの中で高まっています。

バウマンは次のように説明しています。「クライアントからの関心は非常に高く、こういった種類の脅威に対するソリューションについての問い合わせが増えています。しかしながら、企業の多くが、自身がさらされている脅威を把握するための情報収集から開始している状況です。おそらく、実際の需要がはっきりと見えてくるまで、あと2、3年はかかるでしょう。」

市場でのギャップ

企業のNDBIリスクに対応する商品もありますが、これらはマスマーケット向けではなく、オーダーメイド型の商品となります。したがって、リスク・マネジャーが自社のニーズに合った「既製の」ソリューションに出会うことが難しいという事態が発生しています。したがって、保険会社や他の保険事業者は、かなりターゲットを絞った上で、どのようなリスク移転オプションが利用可能かをリスク・マネジャーに説明することが求められています。バウマンは次のように述べています。「保険業界が今日提供している企業向け商品を見ると、会社役員賠償責任保険を除き、発売から50年以上経過しているものもあります。結果として、これらの商品とリスクに関しては、数多くのデータが入手可能です。しかしNDBIでは、リスクが多様なため、商品とリスクの両サイドで不明なことが数多くあります。この問題についてよく理解していない事業者も多く、保険業界はこうした多様なリスクに対する大きな需要をまだ開拓できていません。」

例えば、新型コロナウイルスのパンデミックと火災保険とを比べてみてください。火災と建物はよく理解されているので、発生した際の損害を想像することは難しくないでしょう。しかし保険会社にとって、パンデミックによる損害がどのようなものか、あるいは企業がどのような損害に直面するのかを説明するのは困難です。
ロイ・バウマン, シニア・ストラクチャラー EMEA, スイス・リー・コーポレート・ソリューションズ

コミュニケーションが鍵

既製の商品がないからといって、リスク・マネジャーがリスク移転方法を見つけられないということはありません。ですが、ソリューションを見つけるためには、保険会社と顧客との間の相互協力が必要です。

バウマンは次のように説明しています。「顧客側に不可欠なのは、問題を明確にすることです。残念ながら、これは言うほど簡単ではありません。幸いなことに、保険業界はこうした問題に喜んで向き合ってきました。商品はまだ用意されていないかもしれませんが、情報が多ければ多いほど、お客様が正しい解決策を見つけるサポートをより的確に行うことができます。 」

「最終的には、より標準化された商品が提供されるでしょう。お客様の需要がそこにあるのですから、そうならなければなりません。これを実現するには、保険会社は市場が望むものをよく理解する必要があり、お客様はそうした情報に対する要求に応える必要があります。しかし、それは少し先の話です。しばらくの間は、リスク移転を望む企業はオーダーメイド・ソリューションを選択する必要があるでしょう。」

「保険市場のハード化によって、お客様の関心がシステミック・リスクに対する今日的なトレンドから大きく逸脱しないことを願います。既存のリスク移転にかかわるコストが前年比10%以上増額するような状況では、新たなリスクに対する関心が阻害されてしまう可能性があります。しかしながら、統計が示すように、無形資産の損失は毎年増加傾向にあり、企業はこうしたリスク要因から自らを防御することが益々重要になってきています。」

本記事は2020年9月25日にStrategic Risk に掲載されたものです。