保険の未来:リスクの移転、保有、資金調達

現在、変化する市場動向と新型コロナウイルスのパンデミックにより、すでにハード化している市場への圧力が高まっています。「リスク・ファイナンスについて再検討する時期になっているのかもしれない」と、コーポレート・ソリューションズ・マネジメント、グローバル・キャプティブ・ソリューションズリーダーのトーマス・カイストは語っています。

現在、変化する市場動向と新型コロナウイルスのパンデミックにより、すでにハード化している市場への圧力が高まっています。現在の状況と差し迫った景気後退が巨大な不確実性を生み出し、その結果、保険料は上昇し引き受け能力は縮小して、保険会社、ブローカー、顧客にとって等しく困難な状況が生まれています。

結果として、多くの顧客がどのリスクを移転し、どれを保有するのか、そして資金の自己調達リスクが自社にとって費用対効果があるソリューションとなり得るのかを再検討することに驚きはありません。

一般的に、資金の自己調達を検討したいと考える顧客には2つのタイプがあるようです。1つ目は、保険の観点から(保険引受が)難しい業種と一般的に考えられている企業のグループです。

2つ目のグループは、保険市場の中では通常よい保険手配が出来ているものの、現在保険会社に支払っている保険料が社内にあるリスクを適切に反映していないと考える顧客です。

利用可能な資金調達オプション

資金の自己調達方法を検討する理由に関係なく、一部のリスクを負担することを検討する場合、大きく4つの選択肢があります。

1. 免責金額を増やす

最もわかりやすいソリューションは、保険プログラムでの免責金額を増やし、その範囲でリスクを負担するというものです。

しかし、このアプローチの主たるマイナス面は、自社グループ内に、この増えた分のリスク負担あるいは免責金額を賄えるだけの十分な現金または資本がない部門が存在する可能性があることです。

つまり、先々で問題にぶつかる可能性があるということです。その免責金額内の事故や損害を自身で管理しなければならず、より大きなリソースが必要となるかもしれません。

2. キャプティブの設立

第2の選択肢は、キャプティブ(保険子会社)を設立することです。これは、当該リスクの理解不足、またはリスクを引き受ける十分な意欲がない保険市場を原因として、引き受け能力の不足と高い保険料に直面した企業にとって、長い間 潜在的な保険ソリューションとなってきました。

キャプティブによって引き受け能力が増え、市場に移転すると決めたリスクと比較しながら、企業が負担するリスクの種類と水準を管理できるため、このアプローチは人気があります。これは特にハード・マーケットにおいて有益で、コスト削減、キャッシュフロー管理の改善、そして保険に対してより大きな支配権を握ることができます。

しかし、キャプティブ設立について考慮すべき問題は、その設立、運営には費用がかさむこと、またその事業を停止したい場合は、規制当局との手続きにかなり時間を要するため、容易に撤退することができないことです。

3. 保護セル会社の設立

キャプティブをその費用面から敬遠するのであれば、代わりに保護セル会社(Protected Cell Company:PCC)を検討することも一考です。PCCの場合、すでに設立されすべてのインフラが揃ったセル会社の株式「セル」の所有権を保有することになります。

このアプローチをとることで、そのインフラの規模から恩恵を受けることができます。つまり、投入する資本と、事業運営上の経費を抑えられるということです。

しかし問題は、すでに設立されたオフショアのセル会社に参加することになるため、所有権と持分の直接的な支配権が少なく、事務管理、経営、ガバナンスについて第三者である「コア所有者」に依存することになるということです。

更なる問題としては、このアプローチでもまだかなりの費用がかかり、やはりある程度の資本投入が必要であること、そして「リスクギャップ」としてある程度の担保が必要となるかもしれないことです。

4. バーチャル・キャプティブの設立

現存する主な資金の自己調達アプローチに関連する問題に対し、そのいくつかを解決する一助となるべくバーチャル・キャプティブの概念が開発されました。バーチャル・キャプティブの場合、キャプティブの利点の多くを得ることができながら、法的主体の所有者となる必要はなく、従来の設立に関する規制上の複雑さがありません。

その代わり、スイス・リー・コーポレート・ソリューションズのバランスシート上でキャプティブの金融メカニズムを模倣(つまりリスクに対する資金を自己調達)します。

実際には、これはクライアントとの保険契約であり、複数年にわたり金融リスクをカバーするものです。保険会社としてこの契約により補償を提供し、既存インフラを通じてソルベンシー面のすべてに対応します。従来のキャプティブは、親会社に対する配当を通じて残った資金が支払われますが、このケースでは顧客に対しロー・クレイム・ボーナスという形で残りの資金を支払います。同様に、事態が予想よりも悪化した場合には、追加の保険料要素が発生する場合があります。

バーチャル・キャプティブアプローチを採用する前に、主に2つの事項について検討する必要があります。1つ目は、複数年の契約を締結するため、本当のキャプティブよりも内容変更における柔軟性にやや欠けることです。これは、何でも思いどおりにできる自社キャプティブとは違い、バーチャル・キャプティブでは相互契約に左右されるためです。

2つ目は、保険プログラムを購入していることから、リスク移転が絡むということです。したがって残りのリスクに対しては、保険会社のリスク選好度に依存することになります。つまり、現在のパンデミックなど、バーチャル・キャプティブが適切なソリューションとはならない場合には、ある程度のリスクが発生します。

しかし、キャプティブが保険対策として正しい選択だと判断しながらも、それに必要とされる時間、コスト、複雑性を避けたいがために代替案を検討している多くの企業にとって、バーチャル・キャプティブは適したソリューションであると考えています。また、将来キャプティブから撤退することに不安がある、または新しいキャプティブを設立する前の時間的隔たりを埋めたいという企業に対しても、非常に適しています。

注:上記オプションは、海外での事例を中心に記載しています。日本においては規制上の問題から、実現が困難なものがありますのでご注意ください。

本記事は2020年9月25日に Strategic Risk に掲載されたものです。