アジアにおける自然災害に対する補償ギャップ
記事情報と共有オプション
自然災害の補償は十分でしょうか?
2011~2020年の期間における自然災害の件数と関連する経済的損失の規模は、1970年以降の過去数十年間の中で最も大きくなっています。世界の保険市場は成熟しつつあり、特に先進国では保険の普及率が高まってはいるものの、スイス・リーのシグマ調査によると、過去10年間に発生した自然災害の補償ギャップ(経済損失額と被保険損失額の差)は世界全体で64%に達しています。2020年版の「Ecological Threat Register(生態系への脅威登録)」によると、アジア太平洋地域では過去30年間で最も多くの自然災害が発生しており、今後20年間でその頻度はさらに増加する可能性があるとしています。米国や西欧では、過去20年間の自然災害による付保対象外損失が約70%であるのに対し、アジアで懸念されている補償ギャップは平均92%です。
日本は保険料ベースで世界第3位の企業保険市場であるにもかかわらず、過去10年間の自然災害損失の74%(2,600億米ドル)が無保険であるという事実は驚きかもしれません。限度額の高い商品や、事業中断保険、偶発的な事業中断保険、デリバティブ、パラメトリック型保険、キャットボンドなどの各種商品の購入に対する関心は、依然として比較的低い水準です。日本は他のアジア諸国に比べて自然災害への補償が進んでいるかもしれませんが、補償の充足性という点では、米国や西欧にはいまだ及びません。
地震保険と台風・洪水保険は同じくらい重要でしょうか?
2011年の東北地方太平洋沖地震と2016年の熊本地震を除くと、日本で過去10年間に発生した最大の大災害は、2018年の台風チェービー(台風21号)と2019年の台風ハギビス(令和元年東日本台風/台風9号)であり、それぞれの経済的損失は総額で170億米ドルと130億米ドルに上りました。過去25年間に日本を襲った台風の中で最も大きな被害をもたらしたのは台風チェービーであると言われていますが、その1年後には台風ハギビスが発生しています。台風チェービーとハギビスの補償ギャップはそれぞれ20%と38%で比較的低かったものの、2018年の台風プラピルーン(台風7号)では73%のギャップを記録しました。この大きな違いは、台風後の大雨や洪水による被害期間が長かったことや、九州地区の保険加入率が関東・関西地区に比べて低かったことなどが要因となっています。報道ではいつも一次災害に焦点が置かれますが、スイス・リー・インスティテュートは、これらの二次災害(台風の後の雨や高潮、地震の後の津波など)がもたらすリスクを過小評価してはならないと述べています。
2020年にアジア全体で最も大きな損害を与えた自然災害は、中国南部の武漢の洪水で、損害額は170億米ドルに達しますが、保険加入率はわずか2%です。この洪水は、6月の豪雨によって引き起こされたもので、合計443の河川が氾濫し、そのうち33の河川が記録的な高水位に達したとCNNが報じています。この洪水の被害総額は、日本の台風チェービーの被害総額に近いものです。今後、同様の規模の洪水が日本でも発生する可能性があり、地球温暖化の影響で台風や洪水の頻度と被害が増加することが予想される中、地震以外の大災害がもたらす影響にも配慮する必要があるでしょう。
保険契約の補償内容を完全に理解していますか?
補償ギャップが存在する理由はいくつかあります。クライアントや顧客の購買行動、リスク管理手法、支払い能力、保険市場へのアクセス、商品の入手可能性などが含まれます。また、損害査定人やクレームズ・マネージャーは、隠れた理由の1つとして、保険の補償内容が十分に理解されていないことを挙げています。
2011年には東北地震に加え、アジアではタイ洪水という大災害が発生しました。スイス・リー・シグマの発表によると、被害総額は約550億米ドルで、補償されたのは約180億米ドルでした。多くの農地と製造工場が影響を受けました。7つの主要な工業団地が3メートル(約1階分)以上の高さまで浸水しました。その結果、会社の経営者やスタッフ、顧客だけでなく、損害査定人もこれらの現場に立ち入ることが困難になりました。保険金の支払いには、平均で1年以上かかりました。国際的なサプライチェーンの混乱が損害総額の大きな部分を占めていました。世界銀行の声明によると、ほとんどの経済活動は12ヵ月以内に回復しましたが、この混乱からの復興には数年かかりました。グローバル化により、多くの日本の自動車・食品会社は、タイにサプライヤーや工場を持っています。サプライチェーンの問題による損失のうち、どの程度が補償されたでしょうか?事業中断や延長条項に対して十分に補償されたでしょうか?同様の状況としては、台風チェービーによって、猛烈な暴風・高潮の氾濫に襲われた関西国際空港のケースがあります。物流は完全に停止しました。また、大阪に拠点を持たない企業でも、サプライヤーや支店からの影響を受けたことでしょう。
日本と同様、香港やマカオも毎年強い台風に見舞われており、過去40年間の平均で年間5.9回の台風警報が発令されています。2018年には、台風マンクットがマカオに大打撃を与えました。香港に甚大な被害をもたらした前年の台風ハトを教訓に、マカオ政府は市民の安全のために市内のすべてのカジノを33時間閉鎖しました。仕事でも娯楽でもカジノに行くのを控える必要があったのです。Union Gaming Securities Asiaは、この閉鎖によって1億8,500万米ドルの収益の損失が生じたと推定しています。水害、電力不足、敷地被害などの損害は通常の財物損害保険で補償されますが、政府の操業停止命令による収入減は補償されませんでした。日本にはカジノもなければ、政府が企業に操業停止を強制する法的権限もありませんが、もしも大規模な自然災害が発生し、自分の会社が事業を停止しながら人命救助に貢献できるとしたらどうでしょうか。新型コロナウイルスの緊急事態宣言でも同様の状況を経験しており、重大な自然災害が発生した場合にも同様に行動する必要があるかどうかを想像するのは難しいことではありません。
補償ギャップを埋めるには
日本では、社内にリスク管理部門があることは一般的ではありません。お客様の事業内容に応じたリスク・エクスポージャーを把握するためには、補償内容が十分であるかどうか、また、エクスポージャーがお客様の会社にどのような影響を及ぼすかについて、スイス・リー・コーポレート・ソリューションズ日本支店の営業チームまたはアンダーライティングチームにお問い合わせください。当社では、地震に対するパラメトリック型保険、洪水や台風などの大規模災害に対する自然災害包括保険など、お客様のニーズに合わせた革新的なリスク移転商品やソリューションをご用意しています。
参考資料Sigma Explorer: https://www.sigma-explorer.com