1つの小さな火花から:発生前に事業中断を阻止

洪水、台風、地震などによる生産施設の被害が頻繁に報道されており、事業に対する自然の脅威が年々明らかになっています。しかし、企業が対処しなければならない深刻な脅威は、自然災害だけではありません。人的ミスや過失は、ビジネスレジリエンスに直接的または間接的に多大なリスクをもたらす可能性があります。スイス・リー・コーポレート・ソリューションズの試算では、2020年にアジア太平洋地域において、火災・爆発など人的活動に伴う危険による財物損失が自然災害による損失を上回ったことが示されています。

可燃物の不適切な保管や、電気設備の詳細検査の不備、または不十分なメンテナンスなどの小さな過失が、不運にも、火災、爆発、故障の原因となる可能性があります。その結果、長時間のダウンタイムが発生したり、生産ラインや事業の中断といった事態に陥ることも考えられます。こうした事故は、時間や利益の損失という点で、企業に大きな負担をかける可能性があります。最悪の場合、人命を失うなど、より悲惨な結果を招くおそれがあります。

もつれ合うサプライチェーンと長引く連鎖反応

事業中断(BI)や生産ラインの混乱は局所的に考えられることがあるかもしれませんが、グローバルなサプライチェーンは複雑に絡み合っているため、現在では単独の事故で終わる場合はほとんどありません。自社の生産施設、原材料や部品のサプライヤー、電力などの重要なライフラインを提供する外部事業者のいずれでも、機能停止が発生すると、事業および施設全体に長期に渡り波及するおそれがあります。

非常に緊迫したサプライチェーンにおいて、悪い影響がパンデミックによりさらに深刻化しているため、企業はエンジニアリングのスキルおよび手法を活用して、自社の脆弱性を公平に評価する必要があります。不測の事故を評価することにより、企業は積極的に予防措置を講じることができ、そうすることで事故の影響度、さらには事故の発生頻度さえも最小限に抑えることができる可能性があります。

規制の厳格化、チェックとバランスのシステムの強化、そしてテクノロジーの採用がさらに進む中、多くの面で生産プロセスの安全性が高められてきましたが、調査によると、多くの企業で事業中断の発生頻度が増加しつつあり、少なくとも損失は増大しています。

例えば、Willis Energy Loss Databaseの損害分析によると、1981年から2020年の間に、化学業界では事業中断による損失が増加していることが明らかになっています。最近の5年間だけでも、事業中断は全損失の約70%を占めています。

この事業中断の増加には、多くの理由が考えられます。グローバルなサプライチェーン・ネットワークがより複雑化していること、高い技術と専門性が求められる生産設備が増えていること、多くのメーカーで「ジャストインタイム」の生産システムが強化されていることなどが挙げられます。さらに、メーカーが機器の耐用年数を延長することに伴い、事故のリスクが高まり、より入念かつ頻繁な点検とメンテナンスが必要となっています。

火災などの事故は、今やサプライチェーン全体に影響するため、復旧に長い時間がかかり、より広範囲に影響をもたらす可能性があります。例えば、2020年に日本にある高級オーディオ産業向けの半導体製造工場で火災が発生し、生産が停止する事態となりました。また、世界的な自動車サプライチェーンに不可欠な半導体製造工場で同様の火災事故が発生した際には、生産に深刻な影響をもたらし、生産再開まで4ヵ月かかると予測されました。

Resilincのレポートでは、2020年におけるサプライチェーン混乱の最大の要因は、工場での火災であったことが示されており、前年比67%増と、パンデミックの影響を上回りました。さらに、こうした事業中断の大部分(83%)は、人的な原因によるものとされています。1

企業文化と実践による事故防止

このような動向の中、「人的」なリスクを防止または軽減して損失から自社を守るために、組織は複数の対策を実施できます。

エンジニアリングと建築設計に国際的なベストプラクティスおよび損害防止の規格を取り入れることが、重要な手法となります。緊急停止システムや固定式消火設備を設置し、体系化された保守および検査プログラムなどの適切なリスク軽減プロトコルでこれらを補完することは、事故を未然に防止するうえで非常に効果的であると考えます。また、事故が発生した場合でも、副次的な影響や広範な影響を軽減することが可能です。

消防設備・システム自体は絶対確実というわけではないため、定期的なレビュー、テストおよび改善を実施する必要があります。正式な消火設備停止許可管理プログラムなどを率先して実施することを通じて、ダウンタイム時のリスクを管理することができます。

さらに、安全の慣行を徹底するには、十分なトレーニングとスタッフの意識向上が不可欠です。火気使用作業許可証損失防止ガイドなどの支援ツールは、作業者の教育および一貫した基準の確保に役立ちます。

リスクの高さ、関連する設備や技術の複雑性を考慮して、損失防止の戦略およびプロセスに関して専門的な助言を求めることをお勧めします。国際基準や規格の認定を受けているだけではなく、理論的な知識を豊富なリソースで補完し、現場の経験を併せ持つリスク・エンジニアリング・サービスを活用することができるパートナーを探すことが重要です。

現場での包括的な取り組みにより、ベストプラクティスに関する知識を蓄積すると同時に、設備の重要性を評価し、ボトルネックを特定して克服する能力を構築します。リスク管理者は、適切なパートナーシップを獲得してこれらの能力を「強化」することで、長時間のダウンタイムの可能性を低減する戦略を策定して、組織のサプライチェーン・レジリエンスを高めることができます。

リスク・エンジニアリング・サービスについてのお問い合わせは、 こちらまでご連絡ください。

1 https://www.mhlnews.com/global-supply-chain/article/21162322/factory-fires-top-reason-for-supply-chain-disruption-in-2020

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