自動車のリコールと部品メーカー

近年は自動車のリコール件数が大変増えてきています。また、リコール一件につき対象となる自動車の台数も明らかに増加傾向にあります(国土交通省
自動車のリコール・不具合情報参照 https://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/data_sub/data004.html)。

と、このような書き出しで文章を始めると、「おまえは保険会社の人間だから、そうやって危機感を煽って保険を売りたいのだろう。」と思われてしまうでしょう。確かにそれはあります。ですが、これは私が日々の業務で自動車部品メーカーさんを対象とするリコール保険の引受審査を行う中、肌で感じていることでもあるのです。そこでこのところ思うところを少し文章にしてみようと思った次第です。

当社がお引き受けしたリコール保険に関し、昨年からいくつかかなり高額に上る損害が発生してしまいました。まだ完全にお支払いが完了したわけではありませんが、最終的に当社からは合計で数億円のお支払いをすることになる見込みです。

まず一つ目。ここ5年ほど自動車部品メーカーさんを対象とするリコール保険の販売を積極的に行ってきました。正直に申し上げ、これまで幸いにも大きな事故はなく、また損害の発生報告をお受けする頻度も極めて希でした。それがどうしたことか昨年数件、しかもそれぞれが億単位のリコール事故報告であったのです。保険料欲しさに安易な引受を行ってきたつもりは全くありませんので、これは正直なところとてもショックでした。

次に、リコールの内容です。実例をそのままお話することはできませんので、架空に置き換えてあります。ご了承ください。

当社のご契約者様はいわゆる第二次サプライヤーの位置にあたります。

このご契約者様の取り扱われた製品の単価は数十円です。50円としましょう。

これを1万個、顧客である第1次サプライヤー様へ販売しました。これにより50万円(= 50円 x 10,000個)の売り上げを得られました。

第1次サプライヤー様は、当社のご契約者様の製品や他のサプライヤーから購入した部品を使用し、モジュールを製造しました。彼らは製品を単価10万円で自動車メーカーへ1万個販売しました。そうしますと第一次サプライヤー様の売り上げは10億円です(= 10万円 x 10,000個)

自動車メーカーはこの第1次サプライヤー様から購入したモジュールを自動車へ搭載しました。第一次サプライヤー様のモジュール1つが自動車1台に搭載されました。

この後残念ながら、当社のお客様である第2次サプライヤー様の部品に欠陥があり、同部品が使用された第1次サプライヤー様のモジュールを搭載した自動車1万台がリコールされました。

リコールにあたりディーラーを含めた自動車メーカー側でまず作業にあたりました。

具体的には、対象となった自動車1万台から第1次サプライヤー様のモジュールを取り出し、良品との交換となりました。

欠陥があったのは、第2次サプライヤー様の製品でしたから、本来は返品された第一次サプライヤー様のモジュールから第2次サプライヤー様の製品を取り出し、同製品を第2次サプライヤー様で修理、あるいは良品と交換し再び第1次サプライヤー様へ納入する、ということになろうかと思います。

しかし今回のケースでは、第2次サプライヤー様の製品は第1次サプライヤー様のモジュールの非常に奥深くに搭載されていたことから、修理は技術的に可能であったものの、実際に修理を行えば、第2次サプライヤー様の製品のもともとの単価50円はおろか、第1次サプライヤー様のモジュール単価10万円よりも高くなってしまうことが判明。これにより、第1次サプライヤー様のモジュールごと良品との交換になってしまいました。つまり、10万円 x 10,000個 = 10億円の損害となりました。

この例のように、当社のお客様である第2次サプライヤー様は1個50円の商品を1万個納め50万円を売り上げたのですが、いま、最大10億円プラス(リコールにかかる諸費用があるため)の損害について責任を負わなければならない可能性が出てしまったのです。

自動車のパーツを製造・供給されるサプライヤーさんにとってのリコールリスクとは、まさにこのようなことを指すのだと思います。そしてこういった事態に対処するため、可能な限り金銭的な備えをしておくことは、事業を継続的に行ってゆくという観点から大変重要であることは言うまでもありません。

その備えの一つが保険ではあるのですが、しかし別に保険でなくとも良いのです。もし、手元の現預金に余裕があれば、それを備えとすることが出来ます。決算時に利益が出ていれば、そこから積み立ててゆくことも可能です。

一方、自ら積み立てをし準備を行うことに対して保険を購入することのメリットは、保険料を支払うことである程度の資金を短期的に確保出来る点であると思います。これにより損害発生時の急激な財務内容悪化の影響を一定程度抑えることが期待できます。また、お支払い頂いた保険料は損金に算入することが出来ます。

しかし、保険も万能ではありません。どういった費用がいくらまで保険でカバーされるかは、保険の約款によりさまざまなのです。既にリコール保険をお持ちの方は是非一度確認されてはいかがでしょうか。一例としてまず、多くの場合リコール保険が発動するのは、当該保険契約が対象としている生産物を原因として対人事故や対物事故が発生した場合、あるいは対人事故や対物事故が発生するおそれがある場合、になっていると存じます。

次にどのような費用がカバーされるのか。基本的にまず、リコールつまり回収行為にかかる費用、自動車を例にとれば、ユーザーに対する通知、メディアを通じての告知のためにかかる費用、対象となる自動車を修理工場などに輸送する費用など。次に、保険の対象となった生産物を修理する費用、修理がかなわない場合に交換したり代替品を調達する費用(通常利益は控除されます)などです。

頭の片隅に留めておいて頂きたいのは、保険の対象となった生産物が搭載された他物、先のリコールの例ですと、保険の対象となる第2次サプライヤー様の製品を搭載した第1次サプライヤー様のモジュール、またはさらにその先の自動車、これら下流の生産物を修理したり、あるいは交換したりする必要が発生しても、こうした費用はカバーの対象とはならないケースがある、或いはこうした費用はカバーされないのが通常であるということです。保険は万能ではない、この点は是非頭に置いておいて頂きたいと思います。

また、とある自動車パーツサプライヤーさんの事例ですが、このサプライヤーさんの製品に関連しあるリコールが発生した際、それにかかった費用を100%負担されたそうです。ところがさらにお話を伺ったところ、そのリコールの原因となった欠陥は、そもそも当該サプライヤーさんではなく、下流のお客様の設計に問題があったということでした。それについてはその下流のお客様も認められていたようです。しかし、その自動車パーツサプライヤーさんは、ビジネス上のご判断から100%のコストをご負担されたそうです。こうしたケースで保険がお支払いの対象とできるのは、通常、保険のご契約者であるパーツサプライヤーさんがそもそも法律上責任のある範囲・額までかつ、保険契約上カバーの対象となっている費目に限ってということになります。それらに当てはまらない額、超過した額については対象となりません。

話を頭に戻しますと、統計上増加してきていたと分かっていても、どこか実感がなかった高額リコールを身をもって体験することになりました。また、私どものお客様の製品の売上高はそれほど高額でなかったにも関わらず、結果としてそのお客様は売上高の何倍にもなる非常に高額なリコールに巻き込まれてしまいました。

自動車はいま機械からどんどん電化製品のようになってきています。その進化の中で、こうした例は今後もますます増加してゆくものと思います。

最後に、私にとって自動車とは単なる移動の手段ではなく、人生を豊にしてくれる大事な相棒のようなものです。最近頻度は減ってしまいましたが、以前は、週末の午後急に思い立って箱根の立ち寄り温泉へ行ったり、鎌倉方面へふらっと海を見に行ったりしたものでした。また、日本は公共交通手段が発達していますが、それでもまだまだ車で無ければ行けないところ、車で行かなければ見られない素晴らしい景色もたくさんあるように思います。

ヨーロッパに駐在していた際には、ドイツのアウトバーンの制限速度の無い区間を200km以上で飛ばしていたことがあります。その時乗っていた車(日本車)は大変性能が良く、そのような高速で走行していてもエンジンが轟音を上げるわけでもなく、ハンドルがぶれるわけでもなく、なかなか得難い体験をさせてくれました。車にはまだまだたくさんの夢を見させてもらいたいと思います。

私は保険業界で働く一介の会社員に過ぎませんが、自動車の進化を担っているパーツサプライヤーさんを、多少なりとも保険の側面からお支えすることが出来るとするならば大変嬉しく思います。

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