災害に対してレジリエンス能力を発揮する:ヒューマンファクターからの検討

1. レジリエンスとは何か

我が国では東日本大震災をはじめとする自然災害の教訓から、内閣官房により国土強靭化が叫ばれています。ここでは「災害に対する事前の備えとして、予断を待たずに最悪の事態を念頭に置き、人命を最大限に守り、また経済社会が致命的な被害を受けず、被害を最小化して迅速に回復する、強さとしなやかさを備えた安全・安心な国土・地域・経済社会を構築する」ことを目指すとされています。この上で、内閣官房国土強靭化推進室により国土強靭化貢献団体の認証に関するガイドラインが策定され、各企業が災害に対する「強さとしなやかさ」(=レジリエンス)を発揮する能力があるかどうかを第三者機関により認定する動きが進んでおり、これまで以上に防災行動計画や事業継続計画(BCP; Business Continuity Plan)を平時に取りまとめることが推奨されています。

出典:
内閣官房, 国土強靭化:  https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/index.html
内閣官房 国土強靭化推進室「国土強靭化貢献団体の認証に関するガイドライン」, 平成30年7月, https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/pdf/ninsyo_gl.pdf

2. 緊急事態でレジリエンス性を左右するヒューマンファクター

ヒューマンファクター:人間を含むシステムにおける人間の能力や、行動特性などの知見の総称

安全の分野ではヒューマンファクターズという学問領域があります。この学問では、心理学や人間工学等の知見を応用してヒューマンエラーを防止したり、システムをより効率的に運用することなどを目指して研究されていますが、今回のニュースレターでは、企業がレジリエンス能力を発揮するための方策についてヒューマンファクターの観点からポイントを述べたいと思います。

ヒューマンファクターから考える、レジリエンス能力を発揮するための3つのポイント

1. 現場にかかるプレッシャーを理解する

ヒューマンファクターの問題の検討の上では、現場でのヒューマンエラーのみにフォーカスするのではなく、背後要因や環境要因まで遡ることが重要です。ヒューマンファクターズにおける安全に関して近年提唱されているレジリエンスエンジニアリングでは、現場担当者レベルの部分をSharp end, 組織風土や文化背景をBlunt endとして下図のように示します。通常はBlunt endからのプレッシャーによりSharp endには非常に高い負荷がかかっていると考えられています。緊急時においては個々人が高いストレスレベルに晒され、Sharp endへのプレッシャーは平時以上に大きくなるため、現場でのエラーやトラブル、情報の伝達の失敗等が発生しやすい状態となります。非常時においては現場の対応力が極めて重要です。そのため、普段から組織全体としてSharp endにかかるプレッシャーに意識を配ることで現場の能力、すなわち「現場力」が平時・非常時問わず十分に発揮できるようにしておくことが肝要です。

2. マネジメントから担当者までの高い水準のSA(状況認識)を確保する

ヒューマンファクターズの分野では人が直面した状況をどの程度認識できているのかという点について状況認識(SA; Situation Awareness)という考え方が導入されています。SAは下記3つのレベルに分かれており、適切な意思決定のためにはLevel 3の水準にあることが不可欠です。

  • Level 1: 現在の状況の要素を知覚する(percept)
  • Level 2: 現在の状況を理解する(comprehend)
  • Level 3: 未来の状況の予測ができる(project)

特に災害時などの非常事態の場合にはSAは著しく低下すると考えられ、マニュアルやエラーログなどによる問題の特定や、組織としての有機的な連携・情報収集が極めて重要になります。また、自身(あるいは組織)がどの水準にあるのかを理解することも、次のすべきことを明らかにする上で大切なポイントです。平時において非常時のルールやマニュアル(例: 緊急時対応計画, 事業継続計画 等)を策定することは、非常時に直面している環境下の現在の状況認識の水準を確認し、どのように高い水準に維持するのか、想定される状況下で鍵となる情報は何かといったことを事前に把握し、明らかにしておく意味においても価値のある取り組みとなります。

3. 意思決定の質を高める

状況が流動的で、かつ想定外な環境下にある非常事態において、一つ一つの意思決定が極めて重大な意味を持ちます。緊急時の人間の意思決定においては二重過程理論(DPT; Dual-process Theory)や自然主義的意思決定理論(NDM; Naturalistic Decision Making)といった理論ならびに実証研究において「深い知識を伴わない拙速な意思決定は場当たり的になり、正しい決断を下せなくなる傾向にある」ことが示唆されています。リソース配分を考慮する、行動の影響を予測するといった点を踏まえた適切な意思決定を行う上では、適切な環境や十分な状況認識が不可欠です。頭に「余白」を常に用意し、第三者的な視点で意思決定を観察することで拙速な判断を避けることが重要となります。平時においてはビジネスインパクト分析(BIA;Business Impact Analysis)におけるシナリオを可能な限り広く想定し(規模・影響範囲・被害等)、それに合わせたBCP/BCMの策定・見直し・訓練をしておくことで組織の緊急事態の対応力を高め、拙速な判断を避けた正しい意思決定につなげることが可能になります。ただし、緊急事態においては事前に整備したマニュアルやルールが機能しない想定外のことも発生し得ます。こうした事態にこそ直面している想定外に慌てることなくまずは状況認識を整理し、水準を高め、知識と照らし合わせながら多面的に複数の選択肢を抽出して結果をシミュレーションすることで意思決定の質を高めることが高いレジリエンスにつながります。

3. 緊急時に保険の果たす役割とは

ヒューマンファクターズの観点から保険の果たす役割とは何があるでしょうか?有事の際に保険会社の果たす役割はご契約者様に保険金をお支払いすることであり、Blunt endにおける経営資源の拡充に寄与します。経営資源の拡充はBlunt endにおける負担を軽減し、Sharp endのプレッシャーを低減することで現場力の発揮につながります。

当社では自然災害に被災されたお客様に対して迅速かつ事業を継続するために柔軟に活用いただける、企業向け地震保険(事業継続費用保険金)※1、および、企業向け自然災害包括保険(災害費用保険金)※2を取り扱っております。これらの補償は被災後すみやかにBlunt endにおける経営資源を拡充し、これにより緊急時の現場力の発揮にも寄与することが可能となります。

今回のニュースレターが、災害時下における貴社のレジリエンス能力をヒューマンファクターの一面から考えてみる一助になれば幸甚です。

さらに災害費用保険金や事業継続費用保険金についてご興味がございましたら当社にご連絡ください。

(参考)

※1.企業地震保険: 事業継続費用保険金
https://corporatesolutions.swissre.com/dam/jcr:b86d6814-f369-4bbf-af01-fc8344ee585d/srij-business-continuity-expense-coverage-20-jp.pdf

※2.自然災害包括保険:商品説明書およびソリューションカタログ
https://corporatesolutions.swissre.com/japan/insurance-solutions/property-and-business-interruption.html

自然災害包括保険に関連するニュースレター[バックナンバー])
https://corporatesolutions.swissre.com/japan/insights/knowledge/natcat-protect.html

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