複雑な自然災害リスクを、実行可能なシンプルさへ

本稿は、AOGS 2025 および JpGU-AGU 2026における弊社Senior Underwriter Property & Lead ParametricのYugo Shinozuka(篠塚友吾)の発表内容のサマリーです。

自然災害は複雑です。地震、津波、豪雨、洪水はそれぞれ発生メカニズムも被害の現れ方も異なり、不確実性を伴います。一方で、災害発生後の企業や社会に求められるものは極めて明確です。すなわち、迅速な資金、透明性のある判断、そして復旧に向けた実行可能な仕組みです。

スイス・リー・インターナショナル・エスイー日本支店は、東北大学との共同研究を通じて、複雑な自然災害科学を、パラメトリック型保険という実務的な金融ソリューションへ橋渡しする取り組みを進めています。パラメトリック型保険は、従来型保険のように詳細な損害査定を前提とするのではなく、あらかじめ合意された客観的な指標と支払条件に基づき、迅速な保険金支払いを可能にする仕組みです。例えば、震度、津波高、降雨量、風速、河川水位などがトリガーとなり得ます。

しかし、「シンプル」であることは「単純化しすぎる」ことではありません。企業が保有する建物、工場、倉庫、サプライチェーン、複数拠点のリスクは複雑であり、実際の損失と指標との関係を十分に説明できなければ、パラメトリック型保険の信頼性は高まりません。

重要なのは、科学的妥当性と実務上の使いやすさのバランスです。

Simplicity is not the same as being simplistic...and that's where our collaboration with Academia begins.
Default profile image

津波リスクについては、気象庁等の限られた潮位観測データから、内陸部に所在する施設の浸水深や被害可能性をどのように説明するかが大きな課題です。

東北大学との共同研究では、確率論的津波リスク評価(PTRA)を活用し、多数の津波シナリオを高解像度で解析することで、潮位観測点における津波高と特定地点の浸水深との関係を可視化・定量化しています。これにより、ベーシスリスク(実際の損害額と、保険で支払われる金額との差異)を完全に排除することはできないものの、その性質をより深く理解し、顧客に対して透明性高く説明するための基盤を構築しています。

また、極端降雨・洪水リスクについては、過去数十年の観測データだけでは、気候変動下で想定される低頻度・大規模な降雨イベントを十分に把握することが困難です。本研究では、d4PDFによる720年分の大規模アンサンブル気候データ、高解像度地形データ、気象・水文モデルを組み合わせ、対象流域ごとの降雨ハザードカーブを構築しています。これは、「100年に一度」を超えるような極端事象を定量的に評価し、流域特性に応じたシンプルかつ信頼性のある降雨トリガーを設計するための重要なステップです。

私たちが追求しているのは、複雑さを無視した簡便化ではありません。深い科学的理解に基づき、災害後に本当に機能する「シンプルさ」を実現することです。アカデミアの知見と保険業界の実務課題を結びつけることで、より透明で、迅速で、実行可能なレジリエンス向上策を社会に提供していきます。

お問い合わせ

関連記事

スイス損害保険会社 パラメトリック型ソリューション

災害発生時の迅速な資金確保を実現するパラメトリックソリューションの特長や活用事例、専門知見をご紹介します。